Vitaと有機EL
このブログ的にはかなりいまさらなんだけど、こういうタイトルで書いた事無かったなぁ?と思って。
PS Vitaの特徴をいくつか挙げよ!といわれれば、右アナログスティックとか、前面・背面タッチパネルとか、ネットワーク機能強化とか、GPSとかトロフィーとかボイスチャットとかSmartARとかいろいろ言える。
とにかくいろんなことができるゲーム機だけに、その興味を持つ特徴は人それぞれなんだろうけど、「3つ挙げよ」といわれれば、たぶん殆どの人がその1つとして「有機EL」をあげるんじゃないだろうか?と、思う。
だけど、「有機EL」という言葉自体は、普段よほどなじみが無いとあまり使わない言葉で、「PSPより大きくてキレイな液晶画面」みたいな言い方をされる事も多い。また、「有機?なんかよく判んないから怖い」とかいう人もいるらしい。
そういう誤解とかをなんか説明できないかな?と思ったのが今日書こうと思った趣旨。
実は、この内容についてはだいぶ前から書こうかな~と思っていたんだけど、機会を逃していたらこんな時期までなってしまった。
この話しは、本来「発売後1ヶ月とか2ヶ月以内にする話」だよね。きっと。
「有機」ってなに?
この話をする上では、結構基本的なことはちゃんと理解しておかないと、誤解が解けないままになってしまう。
なので、ものすごく基本的な話し。「有機ELの "有機" って何?」という所から入る事にする。
よくあるネタとも取れる誤解として「有機ってアレでしょ。有機肥料とか有機栽培とかのアレと同じなんでしょ」と言われることがある。確かに同じといえば同じなんだけど、違うといえば違う。
で、困った時のWikipediaで調べてみると、こういう事が書いてある。
有機化合物 (Wikipedia)
有機化合物は有機物質(ゆうきぶっしつ)あるいは有機物(ゆうきぶつ)とも呼ばれる、炭素を含む化合物である。18世紀には生物、すなわち有機体 (organisms) に由来する化合物には生命力が宿っているため特別な性質を持つとみなされており、イェンス・ベルセリウスは物質を生物から得られるものと鉱物から得られるものとに分け、それぞれ「有機化合物」「無機化合物」と定義した。その後、フリードリヒ・ヴェーラーが無機物から有機物を人工的に作り出すことに成功すると、この定義は意義を失ったが、以降有機化合物を扱う有機化学は飛躍的な発展を遂げることになった。
(強調は筆者による)
極端な話し、「炭素を含む化合物は全て有機化合物である」と言える。
ぶっちゃけ、世の中にある殆どのモノは有機物で作られていると言ってもいいほどの話だ。
そして、先の有機肥料についても「有機物を原料とした肥料」という程度の意味であり、有機ELについても「有機物を原料とした部品(製品)」という程度の意味と思えば同じと言えなくはない。
ただ、化学的な定義の意味で同じなだけであって、名前についている「有機」が同じだから材料が同じだし性質も同じ!というワケではもちろんない。
いうなれば、「日時計」と「腕時計」は同じ時計だけど材料が違うし性質も違う!というのと同じ。
・・・ぜんぜん違うか。
うん。面倒なので、ここから先は脱線は止めよう。
そもそも「有機EL」って何?
困った時のWikipedia。こんな風に書いてある。
有機エレクトロルミネッセンス (Wikipedia)
有機エレクトロルミネッセンス(ゆうきエレクトロルミネッセンス、Organic Electro-Luminescence:OEL、有機EL:ゆうきイーエル)とは発光を伴う物理現象であり、その現象を利用した有機発光ダイオード(ゆうきはっこうダイオード、Organic light-emitting diode:OLED)や発光ポリマー(はっこうポリマー、Light Emitting Polymer:LEP)とも呼ばれる製品一般も指す。
(強調は筆者による)
先ほどの「有機化合物」は、「炭素を含む化合物」だったが、「有機化合物はその構造によって様々な特徴が生まれるモノ」と思っていい。そして、特徴として(有機ELは)「発光が出来る」ということ。
そういう意味では、昨今は節電として人気と注目が高い「LED」などと近しいものだ。
ついでにLEDについても調べてみると、
ハッキリと書いてある。
そう。実際は違うとはいえ、イメージとしては,
「有機ELディスプレイ」は「小さなLEDがビッシリと敷き詰められたディスプレイ」
と考えると判りやすいんじゃないかな?と、思う。
有機ELって液晶と何が違うの?
誤解というか言い間違いに近い話しで、よく「有機EL液晶」とか表現される事がある。
これはさすがに違う。まぁ、今の世の中「液晶ディスプレイ」の方が多くてなじみが多いんだから仕方が無い話しだけど。未だにゲーム屋さんの事を「ファミコンショップ」とか音楽CDのお店を「レコード屋さん」と呼んだりするのと同じ事で。え?後者はもう無い?ないか。そうですか。
で、やはり困った時のWikipedia。
液晶ディスプレイ
液晶ディスプレイ(えきしょうディスプレイ、Liquid Crystal Display、LCD)は、液晶組成物を利用する平面状で薄型の視覚表示装置をいう。それ自体発光しない液晶組成物を利用して光を変調することにより表示が行われている。
(強調は筆者による)
違いが判って頂けただろうか。
- 有機EL
- 自分で発光する。バックライトは不要。輝度の調整は発光量の調整で行う。
- 液晶ディスプレイ
- 自分では発光しない。バックライトからの光を変調する事で色を変える。輝度の調整はバックライトで行う。
この通り、全く別物だ。表現の仕方が油絵と水彩画ぐらい違う。
どちらもメリットやデメリットがあるので一概にどちらがすごいという話ではないが、Vitaに搭載されているのはこの「有機EL」の方だという事であり、これにより今までの液晶ディスプレイとは違う特徴がいろいろと出てきている。
有機ELの特徴とVita
なぜVitaに有機ELが搭載されたのか?それは設計者じゃないんで経緯も含めて良く判らないけど、それはそれとして有機ELである事で、こういう所は違うよな~と利用者の立場で個人的に感じることを書いておく。
黒が黒のままである
バックライトがある液晶の場合の黒色は「光を変調して通さないようにしている」というやり方になる。
この後ろから光を当てている関係で、(液晶は)黒色が真っ黒にはなりにくい。逆に言うと、画面が暗いホラータイプのゲームでも、バックライトを明るくすると暗かった部屋の中が全体的にボンヤリと明るく見えるようになって怖くなくなるという事も出来た。まぁ、これはこれでありだったんだけど。
有機ELの場合は別だ。黒は発光していない状態。なので、どんなに明るくしようとしてもそもそも発光していないんだから黒いまま。黒が文字通り黒、「光を通さない」ではなく「光を出さない」という形で表現される。
発光表現がキレイ
バックライトの液晶に比べ、自身が発光するという特徴の為、「発光表現」がとても自然に行なえる。
バックライトの場合は部分的に発光するという事が出来ないため、全体的に一律の光量になってしまう。この理由により画面中の一部だけを極端に光らせたりする事はできない。あえてやるならば、全体的に液晶のフィルタで光を通さないようにした状態で、一部だけ光を通してそこだけ光っている風に見せるぐらいの表現になる。結局は見せ方の問題なだけですけど。
しかし、有機ELは違う。全体的な光量の調整はもちろん出来る中で、画素単位で発光量を調整出来る。これにより部分的に光らせるという表現がとても自然に行なえる。
具体的には太陽の光の表現などはもちろん、ステージ上のライトや夜の街中の看板など。発光するオブジェクトを自身が発光する事で表現するわけで、これはもうとてもかなり優位性が高い特徴と言える。なお、前述の黒の話しを受けて、影の部分も光らせないという形で対比させることが出来、よりコントラストの激しい表現も可能になっている。
なお、この為に「スクリーンショット詐欺」*1と呼ばれることが起きやすい。有機EL用に調整された画面をパソコンなどの液晶画面で見ると「なんか雰囲気違うよね」という風になってしまう。
逆にPSPなどの液晶用に調整された画面やモデルの場合、Vitaで見るとコントラストがハッキリしすぎてて違和感が出ることがままある。特に白っぽいデザインの場合に顕著に出やすいかも。
視野角が広い
液晶の場合、液晶自体がフィルターという形で光を変調する関係上、どうしても方向が関係してくる。また、液晶の裏側にバックライトがあり、このバックライトの光自体も通常の使用時に見やすくするために指向性を持たせるので、どうしても視野角は影響がでる。横からのぞき込むと急激に暗くなって見づらいとか。
それに対し、Vitaの有機ELの場合は自身が発光していることもあって視野角はかなり広い。横からのぞき込んでも光が暗くなるという事は無い。
もっとも、そのおかげで電車の中などで遊んでいると「何で遊んでいるのか」が結構遠目からでも判ってしまうという問題もある。問題って程でもないけど、恥ずかしがり屋さんはちょっと注意。
残像が出にくい
最近はほとんど気にならないものの液晶の場合、電圧のかけ方でフィルタの濃さを変更するという方式を使う為、製品によってはこの切り換えの遅延により残像が出やすい(残りやすい)。
一方、有機ELの場合は画素自体が発光するので像が残るという事は無く、一般的には「応答速度が速い」と言われている。
もっとも、それは各製品の表示速度がどれぐらい速いかによって決まるものになるんだけど、Vitaでの場合は60fpsという高速描画に耐えられる性能があるとの事。
映り込みが少ない
保護フィルタなどにもよって変わってくる所はあるんだけど、Vitaの有機ELは自分が発光しているので外部からの光の映り込みに多少強い印象を受ける。街中の日中に外でできるか?というと、さすがに無理があるが、それでも映り込みには強いと感じる事がある。
また、携帯ゲーム機なので姿勢を頻繁に変更したとしても、画面内への周りの環境の映り込みが少ないからか、画面に集中できる。この話しは次の項目にも影響する話しかと思うのでここで終了
ただし、ロード画面やスリープ画面などで画面が真っ暗になった時は、普段気にならないそれが映り込むのでビックリすることはある。特に自分の顔とか。まぁ、それは仕方ないね。うん。
焼き付きについて
よく、有機ELは「焼きつきやすい」という人や、逆に「焼きつきにくい」という人がいる。
それぞれの意見はなるほどなーという所はあるのだが、中には少し誤解している人も結構いる。特に言葉としての「焼き付き」については、
焼き付き
焼き付き(やきつき)とは、ブラウン管(CRT)ディスプレイを長時間点灯し続けることによって、ディスプレイの画像表示機能が損なわれること。
(強調は筆者による)
である。
このブラウン管の焼きつきは、「電源を消していても焼きついたものが残り続ける」というものであり、そもそも、ブラウン管特有の現象であって、液晶も有機ELも本来の意味での「焼き付き」とは関係ない話しだったりする。
では、一般的に「液晶」とか「有機EL」で言われている焼き付きってどういう状態?という話しをすると、
- 液晶の焼き付き
- フィルタの残像現象によるもの。液晶の各画素に電圧をかけてフィルタの光の透過具合を調整(調光)しているが、長時間電圧が掛かった状態だと元に戻りにくい状態になり、残像が残り焼きついたように見える。ただし、長時間放置したり、表示する画像情報などを変更すると自然に解消される。画面を消した状態では見分けは付かない。
- 有機ELの焼き付き
- 画素の発光限界に伴う劣化によるもの。有機ELの各画素に電圧をかけて映像を作り出しているが、長時間発光をしつづける状態だと、発光素子が劣化を起こし発光量が低下(最大輝度の低下)してくる。この為、単色の画像などを表示させたりした場合に画面内に焼き付きが出たように見える。経年劣化によるものなので、通常の利用(画面の書き換え)などにより他の素子も同様に劣化してくるとその違いは判らなくなってくる。なお、電圧をかけていない真っ黒な状態では見分ける事はできない。
という話し。ブラウン管の焼きつきとは全く別物である。
っていうか、そもそも今どきの人は「ブラウン管の焼き付き」すら見たこと無い人の方が多いんじゃなかろうか。
多いって事はないか。増えてきた、としても。
まとめ
液晶の場合、液晶の割れによる液漏れなどを除けば、液晶そのものの経年劣化よりもバックライトの経年劣化の方が早く訪れる事が多く、その時間は最近のものだと4~5万時間程度とも言われている。
最近の大型液晶テレビなどは一年中つけっぱなしにしていても3~5年程は持つ計算で設計されているらしい。
一方、有機ELの場合は自身が発光する為にバックライトよりも経年劣化は早いと言われていて、一般的には液晶の半分程度の2~3万時間程度らしい。
ただ、これは極端に言えば「画素単位」の話しなので、「一部箇所だけをずっと発光させ続けると、その部分だけ輝度が落ちやすい」という状態になる。これが焼きつきに見える状態であり、通常の使用、ゲームで全体的に画面を書き換えながら遊んでいる限りでは、そこまで極端な部分的な劣化は起きないと考えていて良いと思う。
また、よほどやりこむゲームであっても、一般的には数百時間から千時間単位であり、普通の人は違うゲームを次々と数十時間単位で乗り換えていくことを考えれば、焼き付きを心配しても仕方がないというか。
なんにしても、「有機ELって何?」って所が少しでも判ってくればいいかな?という話しで。
もっとも、素人が話をまとめたものなので、間違いは多々あると思うけどそんな感じで。