PS Plusのフリープレイとスパイラルの話
4月・5月のPS Plusは一味違う! 「フリープレイ」の注目5タイトルを一足早くお届け!
http://commu.jp.playstation.com/blog/details/20130403_psplus.html
昨日、興味深いトピックがプレコミュに上がった。それが上の記事。
一般的に3月は会社の年度末決算締めの関係で、ゲーム業界に限らず忙しい時期であり、ゲームに関しては発売タイトルが一気に押し寄せる傾向があるが、その反動で4月と5月というのは、割り方発売タイトル数としては落ち着き気味になる。
そういう事を当然知ってというか、踏まえてなんだろうけど、このタイミングで「4月・5月のPS Plusの配信予定タイトル」をアナウンスするというのは、なかなかうまいな~と思う。
合わせて、SOUL SACRIFICEで初回封入、早期購入者に配った「PS Plus 無料体験30日間」のコードも、利用者側には活用できるチャンスでもあるし、この辺りまで計画されていたんだとしたら「あざとい」と言わざるを得ない。
そんな中、良く聞く声として「PS Plusのフリープレイってメーカーは儲かるの?ゲーム売れなくなっちゃうんじゃないの?」という話。
これ、儲かる儲からないの話と言うよりも「損をしない」というか「好転のスパイラルを作る」という事の方が大事な話なのだと思う。
今回は、この辺りの話。
なお、私はゲーム業界人では無いのでこれからする話は推論以外の何物でもありません。そういう意味で、いつも通りの妄想と同じレベル。あと、かなり遠回りしながらのお話。
購入時期で考える5つの客層
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以前、上記の様な記事を書いた。PSPからVitaへの世代交代という観点で「Vitaの購入者層」について触れたものである。「ロジャーズの普及モデル」にならって。
これ、別にVitaの普及に限らなくて、ゲームタイトルの購入者層でも全く同じことが言える。
- (1)イノベーター
- ゲーム発売直後に買う人。予約どころか当日に並んでまで買う層。
- (2)アーリーアダプター
- 初期の購入者層。イノベーター程ではないが、発売されてすぐに買う層。予約をして翌週末などに買いに行く人が多い。
- (3)アーリーマジョリティー
- 中期の購入者層。アーリーアダプターに導かれるように購入する層。購入時期は若干遅れるが、話題として比較的ホットな時期に買う層。予約はしないか、買う意思が少ないまま予約だけしているという人もいる。
- (4)レイトマジョリティー
- 中期/後期の購入者層。購入する意思はあるが、優先度は低くてホットな時期を意識していない。積極性は低く「機会があったら」程度に考えている層。
- (5)ラガード
- 後期の購入者層。ゲームに対して全くこだわりが無い層。積極性は無い。ただ、ゲームの寿命と戦略という意味では無視はできない層(後述)
- 時期の順番が大事となる為、数字で順番を振った。以下もこの数字を記載。
メーカーにとってやはり大事なのは「(2)アーリーアダプター」の人。
ゲームは初動型であることから、この人数分布は一般的な正規分布に従っていないことが多く、「(1)イノベーター」や「(2)アーリーアダプター」に集中することが多い。
「(1)イノベーター」の人は当然大事であるし、メーカーによってはメーカー直販で予約してくれる人もいるので大事なのは間違いない。なので特典が豪華だったりするワケで。
しかし、「(2)アーリーアダプター」の人の評価によっては、次に続く「(3)アーリーマジョリティー」な人たちを牽引する事がある為、この場合には「じわ売れ」と呼ばれる状態になり、これを期待するという意味で大事な層といえる。ただ、このケースになる例/タイトルは決して多くは無い。
ここまでの人が、「積極的な購買層」になる。
この人たちは、定価や店頭での割引き、ポイントを使った購入などでゲームを購入する層で、特典などにも敏感である。また、話題に遅れまいとして攻略本を買ったり、場合によってはDLCなども買う事がある。以前は少なかったが、最近では対戦や協力などのオンライン要素などがあるゲームも増えてきたため、そのホットな時期に遊びたいという、ゲームに対してかなり意識が高い層と言える。
ゲーム会社にとってはメインの顧客である。
ならその後の人はどうなるの?お客さんじゃないの?と。もちろん、お客さんである。
レイトマジョリティーとラガードな人たち
前段より後に購入する層は「消極的な購買層」と言えるだろう。
「(4)レイトマジョリティー」は、基本的に購入する積極性は薄い。
そのゲームに対しての購入意識は低く、他のゲームや何か別の事に比べて優先度はかなり低い人たち。なので、よほどのきっかけで無いとゲームを購入しない。
「ゲームの情報が集まってから買う」「まとまった時間が出来たら買う」「今はお金が無いから後で買う」「そこまで好きなジャンルじゃないからやることない時に買う」
みたいな。何か買わない理由を探している事が多い。ただ、購入意識はあり、機会はうかがっている。
一方、「(5)ラガード」な人は少し厄介だ。そもそもゲームに旬があることを理解した上で、基本的に買わないのだ。いや、正確に言うとこの人たちは「買えなかった層」なのかも知れない。
ゲームに旬があることは理解しているが、そもそも「購入するチャンスも機会も権利も無かった」という層。その理由は個人個人で様々だろう。まだ小学生だったから買えなかったとか、当時出張で国内にいなかったから買えなかったとか、友達の家で遊んで気になっていたけど、ゲームのタイトルを忘れてしまって買えないままだったとか、当時はその存在すら知らなかったがこのジャンルに目覚めて今になって遊んでみる気になった・・・とか。
本来の意味では「積極性が無い層」になるのだが、ゲームに関してはこの辺り解釈が難しい。そもそもゲームが娯楽でありエンターティメントである以上、興味が無く積極性が無ければまず買わないのだ。そういう買わない人は「(5)レガード」にもなりえない。なので、今回は「買う機会が無く遅れた人」と解釈している。
「(4)レイトマジョリティー」との違いは、購入時期ではあるが、その購入時期が大幅にズレてしまった為に、購入機会がかなり限られている層が「(5)ラガード」とする。
ゲームアーカイブスとラガードな人たち
かなり本筋から離れた話なんだけど、ゲームは旬があり買う機会を逃すと店頭からも無くなり「全く手に入らない」という状態になる。
以前であれば、店舗側も改めて入荷なんかしないからよほどの事でもない限りは手に入らなくてダラダラとなる所だが、「ゲームアーカイブス」はこの「(5)ラガード」の人たちを救う手段の一つでもあると言える。
当然、ゲームアーカイブスを求める人たちは、「昔買ったことがあるゲームをもう一度!遊びたい」という懐古目的の人もいる。古いゲーム機が無くなってしまったけどいいゲームは今でも遊びたい!という。
だが、前段までの分類で考えると「その人たちは "既に買ったことがある" という意味で(1)~(4)までのどれかに該当している上でのリピーターに他ならない。なので、改めて「(5)ラガード」には分類されない。過去に遊んだことが無く、アーカイブスで初めて買う人がこの「(5)ラガード」に分類されると考えられる。
無論、ゲームアーカイブスの配信という意味では、それも「発売日(配信日)」となるのでゲームアーカイブスのイノベーターやアーリーアダプターなどの分類は存在する。ゲームアーカイブスに限らず、機器を変えての移植などの場合も同様と考えていい。*1
だが、それも過去に発売したものと同じタイトル、そのタイトルの再販売であると整理した場合については、当初の発売日からの経過日数で考えて「(5)ラガード」に分類する事が出来る。
この辺り、複雑だけれども結構大事な所だったりする。
なお、誤解しないように書いておくけれども、この分類は「同じ人でもゲームタイトルごとに異なる」という点は見落としてはいけない点だ。
自分が好きなタイトルやジャンルであれば、イノベーターやアーリーアダプターに喜んでなる人も興味が無ければ後回しにするのは人の常。無論、「安い方がいいじゃん」とどんなタイトルでもレイトマジョリティーになる人もいるだろうが、そういう人はゲームをホットな時期に遊ぼうという積極的な人では無い。初回特典も特にいらないし、オンラインで遊べなくてもいいし、みたいに。
だが、その人だってゲームを楽しむお客様であることには違いない。もしかすると、その消極的に遊んだゲームの中で「この作品の続編なら、このジャンルなら発売日に欲しい」と、意識が変わることも可能性としてはあるのだから。
そういう人もいることを踏まえて、「フリープレイ」はあると言える。
PS Plus のフリープレイは主にレイトマジョリティー向け
前段までの整理である程度判ってもらえたと思うが、「(1)~(3)までの人」は既に購入済みであるし、そもそも「理由をつけて買わない」のでは無く、ゲームをホットな内に遊ぼうという意識の高い層である。
とはいえ、その人たちが時期として去った後、ゲームの旬を過ぎた後もゲームはゲームとして存在する。
食べ物などの生ものであれば、それは腐ってしまうので捨てるしかないが、ゲームは決して腐らない。まぁ、最近はオンライン系のゲームも増えてきたため、結果としてサービスが無くなるという事はあるけど。
そういう意味で、「PS Plusのフリープレイ」は「(4)レイトマジョリティー」の人をターゲットとしている事が判る。
なんらかの理由で遊んでこなかった人を呼び込むための大きなきっかけとして。
その理由は3つ考えられる。
PS Plus フリープレイの目的の考察
- 既に発売の旬を過ぎたタイトルの販売機会を増やす
- 未プレイ層を増やすことでシリーズ・ジャンルの再活性化
- 継続的な提供による安定的な顧客層の確保と拡大
これらの事を実現するのに最も重要な要素がある。
「ダウンロード販売」
である。
ダウンロード版があることがVitaの特徴
パッケージゲームはタダでは発売できない。
メーカーにとって、パッケージで売るという事にはいろいろと意味がある。買う方だってパッケージで買うという事には意味は無論ある。だから、ダウンロード販売もずいぶん進んできた今でも、パッケージ版はメインで発売されるし、今後もこれが主流にはなるだろう。
だが、パッケージ販売は製造コストが掛かることは否めない事実。
そして、そのパッケージ販売時に「開発費」と「広告費」などの掛かった費用は含めて発売しているワケで、それは計画として製造予定のパッケージ数で決まる。それが全て売り切れれば当然利益は出ている(そうでない場合もあるだろうが)としても、そこから先にどれほどの需要があって再販してまで売るのは、製造コストが掛かるだけに慎重にならざるを得ない。
万が一、再販の需要を見誤って売れ残ってしまえばメーカー側の在庫、リスクのある再販となる。折角売れたのに再販の費用で利益を削ることにもなるし、過剰に再販はしたくないものである。時期が経てばたつほどリスクが上がるのだから。
そこでダウンロード販売。
昨今、「F2P」(フリートゥプレイ)と呼ばれる無料で遊べるゲームも登場しているが、これらも総じて「ダウンロード配信」である。パッケージでの配信はしていない。単純な話として「製造コスト」が掛からないという意味で、とても重要な特徴を持っており、製造の上でのコストはもちろん、流通・メーカーの在庫を抱えるリスクを無くせるという重大なメリットがある。
だからこそ、極端な話として「売れたら売れた分だけそのまま利益」に出来る。
無論、自社サーバではなく、PS Storeを使うという意味では「ダウンロード配信」を開始する為に費用は発生するし、当然それはメーカー側の負担となる。
だが、ここに一つの過去との違いがある。
Vitaについては「基本的にパッケージとダウンロード版は同時に発売」されている。
発売をした時点で、そのダウンロード配信の費用は当初から計上されており、フリープレイをするために新たな費用が発生するという事は無いものと思われる。
なので、「Vita版タイトルは "フリープレイ" に移行しやすい」と考えられる。
これ、現時点でPSPもPS3もダウンロード版の登録タイトル数が少ないので、フリープレイにしづらいという事情があると思う。だが、今後ここ1~2年はPSPのタイトルもダウンロード版が増えてきているので、これも移行しやすいタイトルになると思われる。
ディスカウントとフリープレイ
今更この2つのサービスを定義として書くのもアレなので、前段までの購入者層で分けて考えると、
- ディスカウントは(3)アーリーマジョリティー向け
- 「フリープレイになる前でも購入したい。いつでも期限を気にせず遊びたい」という層であり、きっかけがあればすぐにでも購入してくれる層。
- フリープレイは(4)レイトマジョリティー向け
- 後で遊べなくなっても特に困らず、機会と時間があれば遊びたいという層。購入意思は薄い。
になる。既に一部説明済みの所でもあるが。
注意点として「だってその時はVitaを持ってなかったんだから購入意欲が薄い訳じゃないよ!」という人もいるだろう。当然だ。だからこの分類は「既にVitaを持っている人」を前提としているという所は理解しておいてほしい。
なぜならば、「Vitaを買うほどではない」と思っていたという意味ではそこまで購入意欲は高くなかったと考えられるが、パッケージの値段とVitaも含めた費用では必要とされる物理的な金額差はかなり大きく、これを同列には扱えないからだ。
しかし、大事なのはそこでは無い。
「PS Plusに加入している人が多いことが大事」
なのだ。特にフリープレイで重要になる。
人が多い事こそがフリープレイの意味となる
メーカーにとって、発売から一定期間たったタイトルについては、小売店からの発注は来なくなる。小売店側の在庫で少なくなった需要の市場が回ってしまうからである。
そうなると、あとはいくら待っても売り上げは上がらない。
ダウンロード版、ディスカウントの場合でも結果としては同じだ。パッケージ化のコストが掛かっていないだけで、パッケージ版より安いから購入する人、店舗で見つからなかったから購入する人などはいるとしても、その数は時間の経過とともに減少していくだろう。
そこで「フリープレイ」が出てくる。
契約がどういう形になっているのかは判らないが、1本あたりの利益はパッケージ版、ダウンロード版等に比べれば、単純に多いとは思えない。
だが、「フリープレイ」を求めている層は、それまでに購入する層と客層が違うのである。
既に500円の会費を払っているので、遠慮なくダウンロードしてくるだろうし、今まで寄りつかなかった、敬遠気味のジャンルだったとしても興味が僅かでもあればプレイしてくれるし、それをきっかけに利益と新規顧客の獲得機会が生まれる。
そして、その数は多ければ多いほど効果は高くなる。
まとめ
実はこの話、ずいぶん前から考えてきた話だった。
ホントは、現在までにフリープレイに登録されたタイトルとその発売日との関係、また今後予定されているであろう「ベスト版」との関係などを書くつもりだったんだけど、いい機会だと思って「フリープレイ」の部分だけ切り離して書いてみた。
切り離したのにこんなに長いのかよ!という話なんだけど。
うん。
前段で「ディスカウント」は「(3)アーリーマジョリティー」向けと書いたが、「ベスト版」も同じと考えられる。*2
そして、ベスト版はパッケージである事から、小売店に向けた施策であり先日始まった「ダウンロードカード版」と絡んでくる話だと考えている。
現時点で「ダウンロードカード版」は「SOUL SACRIFICE」しかないが、今後発売済みタイトルについても「ベスト版」でダウンロードカード版の2種類が出てくるかもな?と思っている。
ここまでの話を簡単に表にまとめると、
長い話もこれで一発だったりするという意味で、いかに普段から無駄に文が長いのか?と。
いずれにせよ、フリープレイのタイトルについては「たった500円しかPS Plusに払ってないけど、メーカー側は損してないの?」という心配はほぼ無用と思っていいと考えている。
フリープレイについては、中段辺りにも書いたが、そもそも目的が下記の通りで利益を上げることダケでは無いと思われるからで、むしろ積極的にダウンロードしていいと思う。
PS Plus フリープレイの目的の考察
- 既に発売の旬を過ぎたタイトルの販売機会を増やす ⇒ メーカーの為
- 未プレイ層を増やすことでシリーズ・ジャンルの再活性化 ⇒ ユーザーの為
- 継続的な提供による顧客層の確保と拡大 ⇒ ソニーの為
これらの事が、結果としてみんなの為になる。
既に発売済みのタイトルの「再活性化」で既存ファンの人も刺激にもなるし、自分が遊んでこなかったジャンルに目覚めることもあるだろうし、それがまた次にメーカー側も利益になる。ゲームを遊ぶ人が増えてメーカー側の利益が増えれば、ゲームの値段が下がって発売当日に特典付きでゲームが買いやすくなる。
フリープレイによってメーカー側に今まで以上に利益が入ることは、結果として私たちがよりゲームを手に入れやすくなるスパイラルが出来上がる事になるのだから。
その為には、フリープレイに入ってて良かった!というタイトルが今後も続くことを切に期待するもので。
今回はかなり長くなったけどそんな話。
*1:一方、データや機能を追加した「完全版」と呼ばれるものを待つ人は「その(完全版では無い)タイトルを買わない人」であり、「(4)レイトマジョリティー」でも「(5)ラガード」でもない。もちろん、その新しく出るタイトル(完全版)についてすぐに買うのであれば、それの「(1)イノベーター」や「(2)アーリーアダプター」にはなるかもしれないが、それであっても(完全版では無い)前作においては「購入しない人」であり(1)~(5)の何れにも含まれない。もっとも、そういう人でも「フリープレイ」に来たら前作でもダウンロードして遊ぶことは十分に考えられ、そういう機会の創出という意味合いがフリープレイにはあると思われる。
*2:本日(4/4)発表があったが、BEST版が4/25にいくつか発売されるようである。その中で「真・三國無双 NEXT」と「リッジレーサー」については既にフリープレイ対象になっている。あくまでも憶測だが、リッジレーサーのダウンロード版については、リッジレーサーパスが含まれておらず、DLCで別売りとなっていたことから、フリープレイという名のディスカウントだったと推測出来る。一方の「真・三國無双 NEXT」については、これはVitaの性能を如実に体感できるゲームとしてSCEJが特別に頼み込んだのかもしれない。フリープレイとBEST版が入れ替わりになっていることを考えても。なんとなくだけど。