ダウンロード版とパッケージ版と利益な話
会社の後輩が「そういえば、Vita持ってましたよね!」と言ってきた。
うん。今でも持ち歩いているし、去年買った時に自慢げに見せたことあったね。そういえば。
「あれってPSPのゲームとかも出来るんですよね?PSP手放しちゃったんでちょっと気になっているんです」
うん。出来るけど出来ないというか、そこ説明するの面倒なんだよね。実際のところ。
先日行われたPSPの値下げ効果もあってPSPは現役という以上に元気だし、PSPのUMD版しか出てないタイトルも未だ多く、Vitaで遊べないタイトルも決して少なくは無い。だからPSPのゲームが出来ると言い切れない部分があって。
で、そんな話をしていて後輩がなんかいろいろ誤解していたところもあったのと、会社という場所だったからかなんとなくビジネス的なところで話をしていたので、それのブログ用にまとめてみた。
勢いでまとめたのでまとまってないけど。
なんでPSPのソフトがVitaで全部動くとは限らないの?
根本的な問題。この辺り、結構誤解している人が多い。
PSPのゲームはVitaで全部動くワケではない。その保障も基本的にはされていない。
理想論を言えば「完全互換」が望ましい。それは誰もが望むこと。だけど、「ハードウェアが異なる以上、完全互換をするのは簡単ではない」のが現実。難しいかどうかは設計次第だけど。
そんな大昔なら動かなくて当たり前の所を、なんとか動くようにするには「ソフトウェア上での互換性」で保つのが一般的。いわゆるエミュレーション。その機能を持つアプリケーションをエミュレータと呼ぶ。ゲームの世界だとなんか悪い言葉で使われることも多いんだけど、意味そのものは別に悪いものじゃない。
Vitaの場合もハードウェアが異なる為、PSPのエミュレータが入っていてこれでPSPのゲームも動かすことが出来る。
なら、それの互換性が完璧ではないってこと?
という話で、それは「うん。だいたいそう」というか。互換性自体はかなり高いんだけど、そもそもPSPにあるハードウェア部分をVitaが全部持っているワケではないから完全互換が既に無理という話で。拡張コネクタとかは別物だし、周辺機器の対応状況もだいぶ違うし。
なので、「必ず動くとは限らない」のが大前提になる。
その上で、「動作確認をして問題なければVitaでもダウンロードできる」という形式にならざるを得ない。現在はこの確認が取れたタイトルがポチポチとVita の PS Storeに並んでいる状態。
とはいえ、そこで問題が一つ発生する。
VitaはUMDのドライブがないのでダウンロード版しか動作しないのだ。
PSPのダウンロード版とUMD版はゲームとして違うものなの?
ここについては「基本的には同じもの」になっているハズである。
違いがないのが大前提だ。メーカーとしてもそこを変えてしまっていたら管理が面倒になる。製造コストが場合によっては大幅に上がってしまうこともあるだろう。
なので基本的にはそこに差異はない。
だが、PSPの場合については旧来のゲーム機と同じように「ネットワーク接続が前提ではない」という事情がある。ネットワークに繋げるようになってはいるものの、それはあくまでもオプションであり、それを前提としたゲームソフトの販売ではなく、ネットワークがないことを前提とした販売になっている。
なので当然、UMD版が標準販売方式となっており、ダウンロード版はおまけなのである。
おまけでも中身が同じならダウンロード版も販売しちゃえばいいじゃない!
という声も聞こえてくるんだけど、それには1つの大きな問題が発生してくる。
ダウンロード版はダウンロードされないと売り上げが上がらないのだ。
ゲームの製造コストと出荷
仕事をしている人であれば。いや、していない人でも常識的に判るであろう話として「ゲーム制作にはお金がかかる。しかも先に」というのがある。
開発環境を整えたり、ゲームのデザインやプログラミング、デバッグはもちろんパッケージにして製品とするところまで。あと宣伝も。
とにかく、実際に売るまでにお金が湯水のように出て行く。
当たり前の話。これが「ゲームの製造コスト」。
会社というものがお金で動いている以上、出て行ったお金は出来るだけ早く回収しなければならない。
その回収は当たり前の話で、ゲームが売れたときなんだけれど、パッケージ販売の場合は私たち一般の人が買うより先に売り上げが確定する。
「出荷時」
である。ゲーム屋さんが「このゲームを5本ください」「うちのグループにはまとめて1000本ください」とか。
お店の人がどれぐらい売れるかを予想して、店頭に並べる時。このときに既にメーカーとしては売り上げが確定しているワケで。その1000本がお店で1時間で売切れてしまおうが、1ヶ月かかろうが同じこと。
出来るだけ早くゲームの製造コストを回収するには、パッケージ販売で売るのが確実なのだ。
ダウンロード版は不安定な販売方式
パッケージ販売は前段の通りメーカー側にとっては出荷でまとまってお金が入ってくるという安心感がある非常にプランの立てやすい販売方式。
一方のダウンロード版の場合は、ダウンロードされて始めて売り上げが立つワケで、それ以前については一切売り上げが立たない。ダウンロードされるまで、どれぐらい売れるか確定しないという非常に不安定な販売方式なのだ。
なので、もともとの製造コストが高くない安価なゲームなどには向いているが、開発期間が長いタイトルについては正直向かない。ましてや、長期的に売れるとは限らないタイトルの場合は全く向いていない。
たとえばスポーツのゲームの場合。特に野球やサッカーの場合。
毎年選手は入れ替わるし、チームの成績などのデータが変わる。
一部の人にとってはあの年のデータでやりたい!という人もいるかも知れないが、そういう人よりも「最新のデータで遊びたい」という人の方がはるかに多いだろう。
そういうタイトルの場合は、ダウンロード版で1年後、2年後も継続して安定的に売れるとはいえない。むしろ、「間違えて古いバージョンを買ってしまった!」というクレームに繋がりかねない。
だとすると、そういうタイトルはダウンロード版で売るメリットは少ない。
また、ゲームタイトル内でキャラクターものを扱っている場合。キャラクターものの場合のビジネスは、「利用可能な期限」というものが契約時に設定されるワケで、その期間を超えて売ってはいけなくなる。期限を過ぎる前にダウンロード版といえども販売を終了しなければならないなどの問題もある。
だとすると、そういうタイトルもダウンロード版で売るのは一種のカケになる。ダウンロード版があるからいつでも買えるや・・・という人が、発売日に買ってくれなくなる事も可能性として出てきてしまうのだから。
まぁ、この辺りは契約による所なのでそれぞれの会社やタイトルによっても異なるだろうけど。
まとめ
ダウンロード版の販売をする上で、PS Storeに登録する手数料なども発生するという話も聞いてはいる。その業界の人ではないので詳しいところは判らないが、それはたぶんそうなんだろうと思う。
でも、その値段が高いとかそういう話以前に、そもそもの販売として
「UMD版は出荷数で利益が出るが、ダウンロード版は販売数で利益が出る」
という違いが一番大きいのだと思われる。出荷数の場合は、実際に市場で売れるのに多少時間がかかっても、まとまったお金が先に入ってくるのだから。(ダウンロード版はその全く逆)
ダウンロード版の方が(パッケージ化するコストなどが無い分)利益率も高いといわれてはいるが、実際は会社としての収入は後回しになるので、これはこれで経営戦略が立てにくい。
特に、ゲーム開発費用がゲーム販売の収入より先に発生する業界では「出来るだけ早く回収したい」のは事実だろうし、そこに不安要素のリスクは出来るだけ詰めたくないだろう。
これはPSP版をVitaで買う場合の話だけではない。Vita専用タイトルでも同一のことは起こる。
現時点では、Vitaカード専用タイトルというのは数が少ない(1つのみ)ものの、他にも出てくる可能性は無いとはいえない。本来の意味では「出来るだけ先にまとまって売りたい」のが本音だろうと思うから。*1
ただ、Vitaの場合はPSPの場合と事情が異なり、ネットワーク接続が前提であり、ダウンロード販売が割合としてある程度見込めるという話がある。なので、現在は併売のタイトルが殆どだし、今のところダウンロード販売は結構好調的な話も聞こえてきている。
メーカー側のリスクを踏まえたうえでの決断があって、ダウンロード版の配信は決定されている。
安易に、
- ダウンロード版の方が楽なんだろうからやればいいじゃん
- ダウンロード版はパッケージコストがかかってないんだからもっと安くしろ
- ダウンロード版は途中までタダで遊べる体験版みたいにすればいいのに
とか言えない事情があるということは、ちゃんと理解した方がいいよ?
という話。
すごく当たり前の話でいまさらだったんだけど。
一応、ビジネス的な話という事で仕事中にこんなことを話していた。後輩と。
結構、マジメに。
*1:だから予約特典、初回特典、店舗特典、限定版販売などのパッケージ版ばかり特典が付くわけで。